蝶人戯画録

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国立劇場で「伊賀越道中双六」通し狂言千穐楽をみて

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茫洋物見遊山記第165回

 

 四四年ぶりに「岡崎」を上演するというので、西暦2014年も押し詰まった26日に半蔵門まで出かけました。

 

 席はいつもの3階席の上端右側ですが、私の両隣りについに誰も来なかった。券だけ買っておいて欠席するとは勿体ないことをするものですが、御蔭で伸び伸びと見物することができました。

 

 この歌舞伎は剣豪、荒木又右衛門の「伊賀上野の仇打ち」を題材に取っていますが、この「岡崎」では又右衛門ならぬ唐木政右衛門(中村吉右衛門)が、目指す仇、沢井股五郎(中村錦之助)の居所を、剣の師匠であり股五郎に味方している山田幸兵衛(中村歌六)からなんとか聞き出そうと苦心惨憺いたします。

 

 そして政右衛門は、霏霏と雪降る幸兵衛の家を訪れた政右衛門の妻お谷を邪険にするのみならず、彼女の懐の中のわが子を自らの手で刺し殺してまでも敵討ちを遂げようとするのです。

 

 人情よりは義理、自家の肉親を犠牲にしてでも主家の敵打ちを完遂させようとする武士の渡世の哀しさを吉右衛門が好演していましたが、この人の声も、坂田藤十郎ほど酷くはないが、兄松本幸四郎と同様、細身でキンキンして聴き取りにくい。むしろ相方の歌六尾上菊之助の方が安心して聴いていられます。

 

 声は役者の基本。私は2代目鴈治郎のような音吐とざっかけない演技が好きなのです。

 

 ところで国立劇場は、たしか去年の秋にも近松半二作のこの演目をやっていましたが、いったいどこがそんなに面白いのでしょう。

 

 

   歌壇よりは花壇を私は取るだろう清く正しく美しいので 蝶人