蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

歌う象さん~「これでも詩かよ」第132番

f:id:kawaiimuku:20150321114913j:plain

 

ある晴れた日に第300回

 

 

マンボでマンゴ、マンタがマンポ 

呑気な象さん、ゆらゆるスカート!

ポンポコ、ポンポコ、チンポコリン!

 
古来、家というものは、どっしりと鎮座して動かなかった。

ニュートン万有引力の法則には従うが、動かざること岩のごとし。

さながら風林火山のように不動のものだった。

 

しかし「リトル・ホラーショップ」以降、事態は変わった。

花は歌い、花屋は揺れ動くようになった。我が国でも「踊るサンマ御殿」以降、秋刀魚ばかりか狸も芸者も神社も屋敷も舞い踊るようになった。

 

マンボでマンゴ、マンタがマンポ 

呑気な象さん、ゆらゆるスカート!

ポンポコ、ポンポコ、チンポコリン!

 

1990年代には荒川修作の天命反転住宅が誕生し、2010年にはフロア毎に回転するドバイ・ダイナミック・タワー構想が発表されるなど、機は大いに熟した。

 

かくて長きにわたって「動かないから不動産」と呼ばれた住宅や建築は、「投げる不動産屋」ならぬ「歌って踊ろう動産」、略して「歌う象さん」へと変身していったのである。

 

マンボでマンゴ、マンタがマンポ 

呑気な象さん、ゆらゆるスカート!

ポンポコ、ポンポコ、チンポコリン!

 

揺れ動く家といっても、はじめは4分の2拍子のアンダンテくらいのものだったが、大震災に対応する超高層ビルジングがスロー、スルー、クイック、クイックの4分の4拍子で揺れ始めると、耐震基準にクリアーしながらミック・ジャガーのシャウトに合わせて激しく身をくねらせるロックン・ロール軽量住宅も登場するようになった。

 

退嬰的な8拍子を垂れ流すハウスミュージック館、伊豆の大島では都はるみの「あんこ椿」に合わせた演歌どさ回り長屋、燃えやすい桜材で丁寧に仕上がられた八百屋お七住宅、「A列車で行こう」がかかると二階建が背筋を伸ばして三階まで立ち上がるスイング・ジャズ・ハウス。

 

マンボでマンゴ、マンタがマンポ 

呑気な象さん、ゆらゆるスカート!

ポンポコ、ポンポコ、チンポコリン!

 

三味線が聞こえてくると低音で唸りだす義太夫邸宅、訳のわからぬ呪文を呟くヒップホップハウス、なども続々登場して、いつまでたってもコンクリートしか頭にない安藤忠男事務所はついに倒産のやむなきにいたった。

 

かくて不動産から動産、動く住宅、踊る建築、「歌う象さん」へと革命的な進化を遂げた21世紀後葉のデベロッパーが取り組む最後の壁、それはシェーンベルク、ベルク、ウェーベルンの現代音楽三馬鹿大将の無調ハウス。そして東洋あほだら教の権化、三波春夫の「お客様は神様御殿」の立ち上げだった。

 

マンボでマンゴ、マンタがマンポ 

呑気な象さん、ゆらゆるスカート!

ポンポコ、ポンポコ、チンポコリン!

 

とりわけ難航しているのは三波春夫邸で、「チャンチキおけさ」や「おまん囃子」を軽くクリアーした超ハイテク屋敷なのに、「豪商一代 紀伊國屋文左衛門」の浪曲の入りで、いつもわらわらと崩壊してしまうのであるんであるん。

 

マンボでマンゴ、マンタがマンポ 

呑気な象さん、ゆらゆるスカート!

ポンポコ、ポンポコ、チンポコリン!

 

 

 「滅びるね」と広田先生はまた言うだろう平成日本の混沌を見て 蝶人