蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

色川武大著「友は野末に」を読んで

 

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照る日曇る日第799回 

 

 

表題作を含めて9つの短編、2つの対談をを収めているが、いちばん印象に残ったのは対談相手の立川談志の自由奔放な語りだった。物故した落語家や講談師の名前が出てくるとたちどころにその噺を口にする抜群の記憶力と頭の回転の早さはやはり半端ではない。

 

 

 著者晩年の手になる短編小説では、心中のマゾヒズムを明かす「奴隷小説」や、どういう訳だか口から蛇が飛び出したという奇談で終わる「蛇」も面白かったが、若き日の著者が出たり入ったりしていたという生家の6畳間にこれまた出たり入ったりする動物のことを描いた「吾輩は猫でない」が抜群の出来である。

 

 久しぶりに帰宅するとそこは野螺猫どもの棲みかと化しており、猫に引っ掻かれたり噛みつかれたりしながら「同棲」するようになった6畳間に、カマキリやバッタやカブトムシやコガネムシ髪切虫、とかげ、ガマガエル、鼠などがぞろぞろと入ってくるのを、著者はいっさい手出しせずにせんべいぶとんの寝床からじっと眺めている。

 

「眼がさめてから頬にさわってみると、泥足の跡がいくつもついている。私が寝ている間も皆はさかんに遊んでいるのである」

 

 というのであるが、なかなか私ども凡人にできる業ではない。

 

 そのうち黙って見ていられなくなった著者は、鼠の味方をして猫と戦うようになる。

 

彼等と一緒にいそがしく動きまわって、

「ブーーッーーーー!」

息を鼻から一気に吐き出したり

「ギッ、ギッ、ギッ---!」

歯を噛みならしたりする。

 

 私はこういう人物をけっして嫌いではない。

 

 

デフォルトになってもよござんすか希臘首相ケツを捲くるや水無月尽  蝶人