蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

中平康監督の「狂った果実」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.289

昭和31年当時の鎌倉駅や逗子葉山の海岸、とりわけ曾遊の芝崎が登場するのが懐かしい。むかし家族揃ってよくこの岩磯で泳いだり魚やウニをとったものだ。そんな鎌倉の海でことし4回目の海水浴を楽しんで来たところだ。

当時は水上スキーなどは珍しかったと思うが、これをごわごわの水着をつけた子に教えるのが若き日の津川雅彦。謎の女性北原三枝に一目惚れするのだが、結局は遊び上手の不良少年、石原裕次郎に略奪され、ラストで狂気の皆殺しに転落していくその暗い無表情が素晴らしい。

すべてを放棄し自己を滅却した死への逃亡こそ石原慎太郎の潜在願望だが、年を経るごとにその衝動が保守されてきたことは慶賀すべきか、はたまた哀しむべきことなのかさっぱり分からない。

やんちゃで笑止千万な太陽族!?を演じる裕次郎のセリフは相変わらず聞きとれないがファムファタールの美枝ちゃんにミイラ取りが木乃伊となったアホ馬鹿プチブルのアトモスフェールだけはよく伝わる。

奇才中平の演出を称える映画人が多いが、それほどご立派なものではない。むしろ岡田真澄の奇妙な存在感が貴重である。


喰うても喰うても冷蔵庫に一杯残っているよ愛知和合の巨大西瓜 蝶人