ダグラス・マグラス監督の「Emma エマ」を見て
闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.386
明治時代の倫敦に留学した漱石がもっとも愛し、かつ高く評価したのがこの映画の原作者であるジェーン・オースティンであることはつとに知られている。
人世の基本が男女の相愛であり、その相愛を決めるのは結婚であり、その天国と地獄のすまいが家庭である以上、小説世界の根本テエマは家庭に他ならないことをオースティン嬢も漱石居士も熟知していた。
彼女が本作や「高慢と偏見」で多感な少女が紆余曲折の末に結婚するまでの経緯を人世の一大事件として克明に描いたように、彼は「それから」「門」「行人」「明暗」などの家庭小説において男女関係の底知れぬ深淵を垣間見せた。
神は細部に宿るように、真実は平平凡凡たる些事に潜む。この映画のヒロインであるエマ(ギネス・バルトロー)が試行錯誤と失敗を積み重ねながらも最後にもっとも彼女にふさわしいと思われる男性と結ばれる時、それが小説や映画のスクリーンにおける絵空事であるにもかかわらず、我々は自分たちの大事件のように感じ、そのハッピイエンディングに心からなる快哉を贈るのである。
喜びも悲しみもこの曲に込めてさらばプリプリダイアモンドだお 蝶人