蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

夢は第2の人生である 第19回

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西暦2014年水無月蝶人酔生夢死幾百夜 

 

「あまりにも多忙だったので、パンフレットの文字校正をする余裕がなかったのです」、と若者たちは、懸命に弁明するのだった。6/30

 

私たちが運営しているNPO法人は、今年は赤字のはずだのに、なぜか50万の黒字になっているので、調べてみたら安倍蚤糞という会社から350万円の寄付があった、ということが分かった。彼らは水面下で税金をばらまいているようだ。6/29

 

その謎の電話会社は、先住民に誘拐された一家の悲劇を、隠喩だか、暗喩だか、モチーフにしているという噂があったので、私以外は加入していなかった。6/26

 

「これは陰茎ではなく、イチジクの形をした肥料なのです。原料は花のエキスなので舐めると花のキャンディにような甘い味がしますよ」と、そのセールスマンはイチジク浣腸をぶらぶらさせた。6/26

 

地下のスタジオでカモラマンと一緒に撮影をしていると、役員室から尾上理事長が降りてきて、「このパンフレットには違う判子が押してある」などと、じつにくだらないイチャモンをつけたために、撮影は中断のやむなきに至った。6/25

 

夜の海の奥底には、無数の深海魚がひめやかに泳ぎ回り、その隠微な世界は、波の上からのぞきこんでいるだけでは、到底伺い知ることができない。6/24

 

停車中の電車に乗り込むと、大学の演劇部の仲間たちが、座席にすわっている乗客たちを次々に殺しているので、恐ろしくなった私は、電車から飛び降りて線路伝いに逃げだした。6/23

 

独り暮らしをしているマンションで家政婦を頼んだのだが、火はつけっぱなし、水は出しっぱなしで、部屋中が水浸しになってしまったので、すぐに追いだした。6/22

 

もののはずみで誰かが「こんな会社辞めてやる」と言い出し、まわりの連中も「我も我も」と続いたので、ブラックプレジデントの私は、「本当に辞めたいなら、人事課長の中沢君か係長の内田君に届け出なさい」と言うた。6/21

 

夢の中なので、いくらお金を借りようが使おうが関係がないということにようやく気づいた私は、それこそ夢中になって欲しかった高価なあれやこれやを、どんどん手中に収めていたのだが、ふと「夢から覚めたらどうなるのか?」と心配になった。6/20

 

私はAに金を貸した。その金をAはBに貸した。しばらくしてAは、「Bが行方不明になった」と私に告げたが、おそらくそれは嘘だろうと思いながらバイトを続けた。6/19

 

私は、息子が私のお金を無断で持ち出したことを知っていたが、なにも言わなかった。しばらくして金庫を覗くと、そのお金は元に戻っていたので、息子が返したことが分かった。6/19

 

地震警報が発令されたので、私らは間もなくやってくる津波にそなえて、各戸に1個ずつ配布されている大きな浮輪を膨らませようとしたのだが、慣れない作業ゆえに捗らず、焦りまくっているうちに、それは襲ってきた。6/17

 

客がギネスばかりのんでいるロンドンのパブで、私はノンアルコールのビールを頼んだはずなのだが、それはいつまで経っても運ばれて来なかった。6/16

 

彼らは男ばかり数名で共同生活をしているようだった、ノノヘイが病気の時はセキノが、セキノの具合が悪い時はスギザキが代わりに仕事に出て、お互いに助け合っている姿が好ましかった。6/15

 

東京を逃れて京都にたどりつき、熊野神社あたりで学生相手の一膳飯屋を物色していたのだが、唯一の女性である前田嬢が「これは嫌、これもダメ、ちゅうちゅう蛸かいな」と文句ばかりつけるので、いつまで経っても昼飯にありつけない。6/14

 

世の中が戦争一色に染まって来たので、もう黙っているしかないといったんは思ったのだが、あまりに酷い事態を迎えつつあるので、最後の科白を言おうとした途端、突撃兵たちの集団に飲み込まれてしまった。6/13

 

私が率いる1個小隊は、東に向かっていたのだが、西からやってきたわが軍団の大波にのみ込まれてしまったので、みな三八銃を抱えたまま、ちりじりばらばらになってしまった。6/13

 

「これからはワンショットごとに消費税を掛けることになった」というので、念のために撮影済みのフィルムを調べてみると、確かに映像毎のすぐ後の黒いフレームには「消費税8%」と書きこんであった。6/12

 

私は息子を海につれていって泳ぎを教えようとしたのだが、彼は親の言うことは全然聞かず、しばらく放置していたら独りで沖合まで行って勝手に泳いでいるのだった。6/11

 

塹壕戦に従軍していた私らは、指揮官が全軍突撃を命じたので、三々五々前面の狭い砲撃口から外へ出ようとしたのだが、そもそもそこが狭すぎるうえに、銃や背中の飯盒が邪魔になって、押し合いへしあいするうちに全てが終わった。6/11

 

プロレスの八百長試合で、私が「ハイ」と声を掛けると、甲が乙に業を掛ける段取りになっていたのだが、んなこたあすっかり忘れて試合を見物していたために、試合はそのまま終了してしまった。6/10

 

最新のメンズ市場の販売動向を中島選手が延々とレポートしている間、僕たちはねんねぐーしたりあらぬ空想にふけったり、どうやって借金を返済するか算段したりしていた。そして僕たちはこういう時間こそはリーマンにとって至高の時であることを知っていた。6/9

 

大勢の兵隊を乗せた巨大な軍用列車は、なぜか線路から浮かんでしばらく空中で静止していたのだが、突然呪縛が解けたように汽笛を鳴らして疾走し始めたので、兵士も群衆も鳥も喜んで叫んだり鳴いたりした。6/8

 

洗濯物を家の外に干しておいたのだが、いつの間にやらそれが道路に落ちてしまって、その上をたくさんの車が轢き過ぎていくのだった。6/8

 

苦心惨憺の末に1枚1面当たり3時間の長時間超高音質安価LPレコードの開発に成功した私は、CDの音の暴力に悩まされ続けていた全世界のクラシックファンから感謝されただけではなく、一躍大金持ちになってしまった。6/7

 

死刑囚の私の首の上から、シューっと唸り声を上げてギロチンの刃が落ちてくるのを聞きながら、私はそれが初めてではなく、いままでに幾たびか経験していたことを思い出していた。6/6

 

戯れにガイガーカウンターを買った私が、自分の体や周囲の家具や植物などにそれを向けると、物凄い音響を発してガアガア、ガアガアと唸り続けるので、私は思わずそいつを取り落としてしまった。6/5

 

プロデューサーは、私が演出する番組の視聴率が悪いのを気にして、あれやこれやの提案を口にするのだが、私は昆虫の名前はすぐに覚えられるのに、どうして野の花や草花の名前を覚えられないのかと考え込んでいた。6/3

 

私は寝る前に黒い靴下を履き、これなら水虫も痒くならないはずだ、と考えていたのだが、夜中に蚊に刺されてしまったことは想定外であった。6/3

 

私が彼の女を奪ったために、彼はたいそう私のことを怨んでいたが、これまで彼は大勢の男たちの女を無理矢理奪っていたので、これもいい薬だと私はひそかに考えていた。6/2

 

グリーン州のグリンランドがこんなに素晴らしい緑の楽園とは知らなかった。観光客は誰ひとりいないし、風と鳥の鳴き声以外は朝から晩まで物音一つしない。私はなにもかも捨ててこの地に永住したいと願った。6/1

 

 

 なにゆえにアメリカは自衛権を主張するイスラム国から侵略されたの? 蝶人