蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ある丹波の老人の話(26)

数奇な運命にもてあそばれ、しばしば逆境にさいなまれておった私ですが、いつもすくんでおったわけでもなく、たまには青年らしく私なりに熱い血を燃やして立ち上がったこともありました。

私は案外早く貧乏暮らしから足を洗うことができるようになると、だんだん世間が明るくなり、私自身にも元気が出、青年仲間からも立てられるようになりました。

その頃選挙の取締りが過酷で、町の高倉平兵衛氏などが選挙違反で検挙されたとき、私は義憤に燃えて急先鋒となり、年長者で声望のある医師の吉川五六氏を会長とし、町内青年の幹部を糾合して大いに官憲の横暴を鳴らしたもんでした。

間もなく今度は郡是応援の町民大会を開き、これには大島実太郎氏のような名士も同調し、波多野翁も演壇に立って声涙共に下る感謝の演説をされたもんでした。

そのことが優先株の引き受けを容易にして郡是の危機を救うことになったのは思いがけない副産物でした。これが二日会の発端となり、この集まりはいまも続いて市民の健全かつ有力なる世論の基礎を作っておるわけです。