蝶人戯画録

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大塚英志著「怪談前後 柳田民俗学と自然主義」を読む


降っても照っても第26回

柳田國男が「遠野物語」の佐々木喜善、「蒲団」の田山花袋、同じ自然主義作家の水野葉舟との交友を通じていかにして柳田流の「自然主義」を追求し、国家社会や文芸と向き合いながら、花袋が私小説を創造したように、学としての「民俗学」を創成していったかを微視的に考察する労作である。

この本によれば明治40年代は空前の「怪談」の時代であり、例えば小泉八雲の「日本瞥見記」や徳田秋声の「あらくれ」、夏目漱石の「夢十夜」のような夢物語が異常なまでに持て囃された。

そのような怪談の時代にあって、柳田ひとりが政治的な植民地論と自然主義運動の双方の関心を抱きながら私的怪談から「山人論」を立ち上げていく。

柳田は「遠野物語」から「山の生活」そして昭和6年の「明治大正史世相篇」を発表するなかで、自らの疑わしい来歴を日本の名も無き普通の人々の歴史と同化させ、そのことを通じて民衆史の新しい書き直しに成功するのである。


大町にジャカランタ咲き和泉葉橋に最後のホタル舞い鎌倉の夏がはじまる