蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

友達の友達


♪バガテルop28

14日附の日経朝刊によると、法務省は来日する16歳以上の外国人に対して、指紋採取と顔画像の提供を義務付け、来る20日より全国27空港と126の港湾で実施するそうだ。新システムは特別永住者や外交官、日本国の招待者を除く全員に適用され、この措置を拒んだ外国人は入国させないそうだ。

これは鳩山“喋蝶”大好き法相の“お友達のお友達”の侵入を水際で撃退するためらしいが、私は世界で米国についで二番目にヤマト国が誇らしげに導入したこの措置に賛成しない。
というのもこうした外国人への対応は、性善説ではなく、性悪説に立っているからだ。すべての外人は警戒すべき異人であり、犯罪予備軍であり、「人を見たら泥棒と思え」という考え方に結局は基づいているからである。

その性悪説が次々に新たな敵意と反発を、さらにはそれを抑止するために創案されたはずのテロと戦争さえも生み出すことは、かつての大戦やパレスチナ戦争、相次ぐ軍拡や原水爆保有競争、つい最近の9・11同時テロに続くアフガンやイラク戦争の成り行きを見れば火を見るより明らかではないか。
つねに最初に武装する者が、次に武装する者を生むのである。

2番目の理由は、私自身がヤマト国と同じような非友好で敵意に満ちた不愉快な対応を外国の空港でされたくないからだ。お見合い写真ならともかく警備員に顔写真を撮られたり、指紋を採取されたりするくらいなら私は死ぬまで外国に行かないことを選ぶだろう。それは個人の尊厳の侵害であり冒涜である。

そのうち成田や関空に行くと、彼奴らは私のちっぽけなおちんちんも「見せろ!」と言い出すに決まっているぞ。いくらちっちゃくてもおちんちんなら見せてもいいが、ついでにオシッコひっかけてもいいけれど、指紋と写真と貞操だけは許せねえ!

私が息巻いてそういうと、「ではお前の友達の友達の中にはきっと治馬敏羅人と知恵偈原がいるに違いない」と指摘する人がきっとでてくるだろうが、何を隠そう実は彼らは私の親しい友なのだ。
だからといってヤマトに芸者遊びにやってきた2人が、私の大好きな小林旭のように

♪ダイナマイトがよお、ダイナマイトが150トン!

などと歌うわけがないだろう。
ところで、あなたの友達の友達ってみんな悪い人ですか?

さて私の最後の反対理由は、今回の措置が世界中の人間の自由を貶め、人品を卑しめるからだ。最下層遊民の私は、ヤマト国がいくら貧しくなり、人口が減り、アジアの三等国いや最低国に成り下がり、経済成長がぱったり止まってもいっこうに構わないが、ヤマト人間の根幹の矜持が腐っては困る。

かの中原中也も歌っているではないか。

♪人には自恃があればよい!
その餘はすべてなるまゝだ……

自恃だ、自恃だ、自恃だ、
ただそれだけが人の行いを罪としない。(中原中也『盲目の秋』)

ところがヤマト国と米国は、またしても腕を組んで同伴出勤して、この人倫に悖る行為を世界で率先しようとしているのだ。この馬鹿たりが。 

テロは許されないし、容認すべきではないが、すべての外国人をテロリスト予備軍とみなすヤマト国の野蛮な措置に、私は寄る年波のその年甲斐も恩讐の彼方に投げ捨てて、断固抗議したいのですね。

さうしてヤマトは、世界の悪人と善人を等しく大切にする、世界で最も自由な國であり、できたら永世アジール夢共和国であってほしいな。