蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

帰ってきたカエルたち


♪バガテルop52&鎌倉ちょっと不思議な物語106回

1ヶ月以上にわたって続いていた朝比奈峠の工事がいちおう終わってふたたび自由に往来できるようになった。

危険な倒木を未然に防いだり、歩行者が歩きやすくするということで一部の箇所に橋を掛けたり、補強したりしたそうだ。
700年前の古道の表面は舗装したかのようにつるつるになり、峠道の前後左右に群がり生えていた植物はきれいさっぱり刈り取られてしまったために以前の鬱蒼とした中世の風情は失われてしまったが、まあこれもやむをえないか。

 私はかねてより心に掛けていた峠道の途中の湿地に天然自然に誕生するオタマジャクシのことが気が気でなかったので、市の工事担当者にかねてから当該区画の環境保全の依頼をしていたが、幸い無傷のままで工事が終わった。

しかし例年ならば2月に行なわれるはずのカエルの産卵がいっこうに見られず、工事のせいで土中に隠れていた親ガエルが全滅したのではないかとやきもきしていたのだが、3日前に産み付けられた卵を発見し、ようやく胸をなでおろしているところだ。

 このあたりには昔は少なくとも3種類のカエルが繁殖し、特に啓蟄の頃数多くの大きなヒキガエルの雌雄が泥沼のいたるところで交尾する姿をよく見かけて興奮したものだが、去年あたりからそういう感動的な光景は跡を絶った。

その代わりに昨日浮かんでいたのは小さな2匹のアカガエルであった。おそらく彼ら夫婦が、私が冬の間に落ち葉を掻き分けてせっせと掘った3つの水溜りの2つに産卵してくれたのであろう。できたらもう一箇所にも意気のいい生卵を生んでくれ!と私は声援を送ったが、彼らは知らん顔をしてそっぽを向いていた。

産卵は2月から3月まで何度かにわたって行なわれ、それが4月にオタマジャクシにかえり、初夏の頃にようやく小さなカエルになるのだが、それまでに水溜りが枯渇したり、無法者がオートバイで乗り入れてきてひき殺したり、いたずら者が自宅に持ちかえったりしてほとんど消滅するので、私は全体の卵のおよそ2割を自宅とおばあちゃんチの水がめで養殖し、大きくなってから再びこの池に放して“ういきゃつら”の生育を側面援助している。

年々少なくなるカエルの聖地を断固死守することはたやすくはないが、それは私のささやかな生きがいでもある。ゲロゲロ。


♪痩せガエル逃げるなも一度愛し合え 産めよ増やせよ日本のたから 亡羊