蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2008年亡羊弥生詩歌集


♪ある晴れた日に その24
 
ももんがあ高きより降下して我の目の前で前で身くねらすなり ―夢の中にて

懇々とわれは少女を諭したり何故に鴨に石を投ずるは不可なるかと

なにゆえに鴨への投石は不可なるか情理を尽くして少女に説きたり

出棺に思わず拍手が沸いたという小田実の見事なる一生

わが妻が母の遺影に手向けたるグレープフルーツ仄かに香る

頑なに独り居すると言い張りて独りで逝きしたらちねの母

わたしはもうおとうちゃんのとこへいきたいわというてははみまかりき

瑠璃タテハ黄タテハ紋白大和シジミ母命日に我が見し蝶

犬フグリ黄藤ミモザに桜花母命日に我が見し花

雪柳椿辛夷桜花母命日に我が見し花

市当局の整備工事より守りたる泥沼に生まれしオタマジャクシよ

当局の暴挙を防ぎし小池なり春遅き地にオタマ生まれる

新しき浴槽に初めて身を沈めつつ思うかの古き浴槽はいずこへ行きしか

今日もまた朝から路線図描いているその子の胸に高鳴る車輪よ

同一のガソリン成分排出し飛行機雲の出る日出ない日

長大なアリアを見事歌いきりほっと息つく谷戸の鶯

いざ行かん鯨の家にまたがりてあの青空の彼方まで

悪党の背にはらはらと梅の花

弥生三月春の力をわれに与えよ

啓蟄の虫仰ぎ見る空の青

啓蟄の虫が見ている空の雲

ふきのとう揚げる人あり描く人あり

ふきのとう描く人あり喰らう人あり

アオジコジュケイも飛ぶのが苦手なんだ 

始終ツチェツチェと鳴くからシジュウカラ

ここもまた大寺ありけり冬の谷戸

鳶一羽空に舞いたり廃寺跡

春風や幻の寺日輪月輪ここにあり

梅が香やいにしえの大寺ここにあり

春浅し一味神水の村を過ぐ
悪党共一味神水の村を過ぐ
椿落ち自由狼藉の世界かな
百花落ち自由狼藉春の朝
春浅し落花狼藉朝比奈峠
悪党共落花狼藉朝比奈峠
悪党共落花流水朝比奈峠
悪党共落花流水の村を過ぐ

地に落ちて憾みはなきや冬柏
 
女房の茶碗を割りし悲しさよ
 
男は女に女は男になりたがり

人間を辞めたしと思うこと多し今日この頃

もう十年寝たきりなのよと通りすがりの人がいう

昔の男の顔は立派だったといってから己の顔を見る

この頃の男は貧相な顔になったと言ってから己の顔を見る

生きている人のことはすぐ忘れるが 死んだ人のことはしょっちゅう思い出す
 
この強欲な商業主義世界に 一度に開く梅の花 欲に眼がくらむ亡者たちよ

にょろにょろとたたみのうえをはう蛇を座布団かぶせて捕えしはうちの健ちゃん