蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

一心院跡の春

鎌倉ちょっと不思議な物語108回&鎌倉廃寺巡礼その5

 
ここはわが十二所の明石ヵ谷である。
すぐ近くにはいま値下げ問題で話題のガソロンスタンドがあり、右に曲がればハイランド、直進すれば鎌倉霊園という交差点を霊園方向に10m進んだ左側にこの古刹があった。 

鎌倉時代から江戸時代まで、石山を切り開き四坪ばかりの平地があり、鐘楼堂または鐘つき堂があったと言い伝えられた箇所であるが、いまではその痕跡はどこにもない。
そのかわりに私のははの家がある。もしかすると彼女の家が一心院跡かもしれない。

「鎌倉廃寺事典」によれば、元弘3年1333年9月4日、覚伊僧正が一心院明石本坊に住して沙汰したとある。文和2年1353年5月22日には明石谷法印修法始行とあり、明石ヵ谷より桜を壷に移している。ちなみにこの近所にはいまも桜並木がある。当時はソメイヨシノはなかったが、さぞ見事な桜だったのだろう。

さらに応永13年1406年7月18日の火事では、一心院の大工が上手に消火したと「鎌倉志」に記されている。一心院に住持は鎌倉御所の足利成氏の護寺僧になっていたというが、成氏の御所は近距離にあり、これもうなずける話である。


♪桜花一輪拾いて水に浸す 亡羊