蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

鎌倉国宝館で「鎌倉の精華」展を見る


照る日曇る日第178回&鎌倉ちょっと不思議な物語145回


私がいっとう好きな美術館が、神奈川県立近代美術館鎌倉と「ここ」です。八幡様の境内のなかの木立ちのなかにひっそりとたたずむ校倉造の小さな建物。いつ行っても人影がまばらで心ゆくまで仏像や掛け軸と対面できるのです。
 
その鎌倉国宝館鎌倉国宝館が、今日は珍しくなにやらおめかしして国宝10件、重文65件の絢爛豪華な品ぞろえでお出迎え。開館80周年を記念して、開設当時のコレクションがずらりと並んでいました。

八幡様が所有する漆塗りの弓矢も国宝なんですってね。見た目は瀟洒ですが、さきっちょの矢じりは当然鋭い金属製で、こいつを那須の与一が射れば百発百中で武者どもを射殺したに違いありません。当時は精巧無比な殺人兵器だった。

♪京の五条の糸屋の娘
姉が十六、妹が十四
諸国大名は弓矢で殺すが
糸屋の娘は目で殺す

という私の大好きな頼山陽先生特製の都々逸を思い出しました。


丈六の大仏というのもよく出てきますが、その現物がいきなり出てきたのには驚いた。迫力があります。これと同じ大きさのやつが私の家の近くの光触寺の本堂に安置してありますが、これはもとは実朝が建てた大慈寺の本尊でした。真黒だけどよくも戦火に耐えたものです。

あとは頼朝が奥州平泉を模倣して建てた二階堂の永福寺の向かいの山頂に埋められていた経筒。中には水晶の数珠とお経が入っていた。それを山の中に入って発掘したのは市の文化財担当の若い女性でした。きっと政子の霊が彼女をこの場所に連れて行ったのでしょう。奇跡の大発見としかいえません。見終えて明るい戸外に出るとちょうど結婚式の花嫁さんが若宮に向かうところでした。いい御日和でなによりです。

♪うらうらとひかりのどけきあきのあさぶんきんしまだのはなよめうつむく ぼうよう