蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

西暦2009年茫洋如月歌日記


♪ある晴れた日に 第53回

愛国のマーチに胸は高鳴りて今宵さんざめくブラスの祭典
 
あやしくも胸揺るがすは極彩のジンタブラスの猛き咆哮
 
わが庵にはじめて咲きたる梅の花二輪なれども姿うるわし
 
待ち待ちてついに咲きたるむめの花二輪に添いて妻と楽しむ

果樹園の白梅いまだ四分咲きにして富士のお山は本日見えず

長男と泉水屋にて京急バスの回数券買う楽しき日曜

大いなる楠の幹を切り倒し横浜への眺望ひろげし仕業を憎む

遥かなる浅間山より飛びきたる灰色の砂車窓を塞ぐ

つとめてあかるくいきようでもどれくらいできるかしら

明日持っていく物は今晩中に揃えておきなさいなんて母も言わなかった

嵐の夜西御門の哲人セネカのごとく逝けり江藤淳

雷鳴が轟き渡る西御門セネカのごとく自刃せし君

オバマとなら和解してもいいとフィデルフィデル和解せよ

香ばしき麹の匂いに包まれて年九袋の味噌を仕込めり

余の髪かはたまた妻の髪か浴槽の流しに見つけた白き髪

君は岳私は大天使ガブリエル二人で成りきる風のガーデン

お父さんがく君のがくは八ヶ岳の岳だよと息子いい

思藻がないから語らない 歌がないから歌わない

拝金のドグマで全身武装して装備して朝から晩まで金利を語る

障ぐあい者万歳! 万国の障ぐあい者団結せよ!

キリストも釈迦も太子もモハマドもアジアの果てにて悟達せし人

悴む手われもまたミミのマフにて温まりたし

おちよおちよみなおちよ世界の底が抜けるまで地獄の釜が抜けるまで

新宿のタワー9階1枚400円叩き売られしリヒテルバッハ平均律

あほばかの鎌倉市役所が薙倒したる不毛の荒野に土根性蛙あり 

人の物は自分の物我良主義強欲主義者横行の世を洗濯すべし立替るべし


この春もおたまに出会いしうれしさよ

紅白の梅を咲かせた古家かな

落ちていく世界の底が抜けるまで

鎌倉に生まれて死んだ佐々木ムク

春雨を聴くや五尺の土の下
 
コゲラ叩く大樹の下を通りけり

ただひとり今日もポーチを立て直す大工あり


♪青空や日本全国梅便り 茫洋