蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

愛の昼下がりにいざなう「ピーチ・ジョン」


茫洋広告戯評 第2回

伝説の経営者野口美佳が経営する若い女性のおしゃれな下着の会社「ピーチ・ジョン」は全国で12店舗を運営していますが、現在は同じ下着の大手ワコールの傘下に入りました。
最近沈滞気味のワコールは、苦手な若い女性のニーズをうまくとらえて人気のあるピーチ・ジョンのマーケティング・ノウハウを獲得したかったのでしょう。

それはさておき、私がいつも新宿駅で湘南新宿ラインを待っていると、目の前にルミネとピーチ・ジョンの巨大な構内広告が掲示されているのでついつい眺めてしまうことになるのです。

ルミネはコピーライターとフォトグラファーがそれなりに頑張っていますが、コピーはお世辞にも1流とはいえません。写真もなぜかわざとピントの甘いものを多用しており、もしかするとアートディレクターが一癖ある変態者(褒め言葉です)なのかもしれませんが、じつに気になる広告ではあります。

いっぽう「ピーチ・ジョン」は、大方の予想を裏切って全然変態的ではなく、(モデルは大胆な裸で登場してはいるが)、コピーライターがかなり良い仕事をしています。
例えば今回の広告では、ご覧のように、「Lingerie is Love-Jewelry 」とダジャレで韻を踏んであります。

このような手法はタワーレコードのNo music No life(英国の諺No pain No gainのパクリ)や昔の全日空の「北海道、でっかいどお」という真木準のコピーをはじめたくさんの好例があるのですが、この即席日本製英語は、見た目も、発音も、「ランジェリーは愛の宝石ですよ」という意味付けもふくめて、なかなかのものです。

やってみろといわれても、素人には絶対に作れないキャチフレーズ。ということは、かなりの手だれの仕事でしょう。なぜともなくエリック・ロメールの映画「愛の昼下がり」にも連想が及んで、ラッシュアワーの束の間、あらぬ幻想の世界に遊ばせてくれる貴重な広告ではあります。


  ♪いつのまにか遠い世界になりにけりエリック・ロメールの愛の昼下がり 茫洋