蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ロバート・デ・ニーロと「レガシー」


茫洋広告戯評第3回

今日もまたくたびれ果てて新宿西口の交番を左折してまっすぐスバルビルに向かってよたよた歩いていると、これまたくたびれ果ててぐちゃぐちゃになった中年男の顔とぶつかりました。大きな柱を巻くようにして、だから柱巻といわれている電飾広告です。

 これはもしかして私の大好きなデニス・ホッパーかと思って近づいてよーく眺めたらロバート・デ・ニーロでした。富士重工のレガシーの新車のキャラクターとしてテレビCMや新聞、雑誌、ポスターなどに登場しているのです。

テレビCMはスタンリー・キューブリックの映画「シャイニング」の冒頭でジャック・ニコルソンが運転していたローキー山脈の断崖絶壁のシーンに似ていて、(もしかすると完全なパクリ?)そういえば同じレガシーが以前たしかメル・ギブソンを起用していた際にも、同工異曲のCMを製作していたことを思い出しました。

今回スバルではなんでも2名の有名監督を起用したそうで、この不景気にもめげず恐らくは大枚を投じて撮影されたと想像するのですが、前に述べた2つの演出に比べるとあきらかに劣りますし、それよりもこういう車にはこういうタレントを使ってこういう場所を走らせるのだ、という発想そのものが陳腐で、宣伝屋の浅知恵にはまるで進歩がないことを証明しているようでもあります。

自動車の世界もデトロイトが沈没し、国産勢もそのあおりを受ける中で、かろうじてトヨタとホンダのハイブリッド車だけが気を吐いている今日この頃、この会社のこの車のこの広告はとても現実離れしたドン・キホーテ的なもので、私はその「かつての栄光よもう一度」と黄昏の夕日に向かって寂しく呟く孤独な後ろ姿が大いに気に入りました。


♪両足が伸びたるおたまを池に返す 茫洋