蝶人戯画録

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海蔵寺の「底脱の井」を覗く


鎌倉ちょっと不思議な物語第193回

幸いにも観光客があまり訪れない海蔵寺ですが、その閑寂な趣をさらに情趣豊かにしているのが寺院の外の2つの井戸です。

まずお寺の入口の右側に「鎌倉十井」のひとつである「底脱の井」と明治二七年五月に建立された歌碑があります。

千代能がいただく桶の底ぬけて水たまらねば月もやどらず

 この歌の作者は霜月騒動で惨殺された悲劇の武将安達泰盛の娘で無着如大という尼僧ですが、俗名を賢子、幼名を千代能といました。彼女は早くに夫に先立たれたので京の東福寺で修行を積んで「法は如大一人にて足りる」と称されるほどの大知識になりました。
彼女は素晴らしい美貌の持ち主でした。この海蔵寺の仏光国師に師事しようとしたとき、僧の修行の妨げになると断られた彼女は傍らにあった焼き鏝をその美しい顔に押し当ててやけどの傷をつくり、やっと弟子入りを許されたそうです。

そんな彼女がある日夕食のために水を汲んでいたのが、この「底脱の井」でした。突然桶の底が抜けてしまった瞬間長年の心の煩悶が一気に氷解し、そのときに詠んだのがこの歌だといわれています。

もうひとつは薬師堂の裏側の山腹にあるやぐらの中に16の穴が掘られた「十六ノ井」ですが、現在もきれいな水が湧いています。

以上は鎌倉文学館の資料をもとにリライトしました。


谷川さんの下手くそな詩を読んでいると自分も書こうという気持ちが起こってくる 茫洋