蝶人戯画録

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松本清張原作・堀川弘通監督「黒い画集」を見る


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.21


生誕100年記念とかいうことで松本清張原作の映画「黒い画集」をテレビで放映していました。

東京の丸ビルの4階にある中堅テキスタイル企業の庶務課長が主人公です。浮気している部下のOLのアパートの近所で顔見知りの保険外交員に挨拶する。ところがその男に殺人の容疑がかけられ、課長の証言がなければ有罪になってしまう。

しかし証言すれば不倫が公にされて、順風満帆だった人生が破滅してしまうかも知れない。というプロットがまさに清張一流の形で、物語は途中のしばしのアダージオをはさみながら、ラストの一大カタストロフめがけて急流をいっさんに下るようにアレグロで展開します。

脚本は黒沢作品もよくてがけた橋本忍ですが、物語の話者を主人公にしたのは疑問。悲劇の構造をもっと客観的に浮き彫りする手法がほかにあったはずです。
監督はベテラン堀川弘通で万事そつがない。小林桂樹がどつぼにはまったサラリーマン課長を力演していますが、それもむべなるかな。この映画が製作された1960年の40年後には、このポストが社長への近道となる出世コースとなるのです。

それはともかく、小林桂樹の愛人に扮した原知佐子の小悪魔的な演技を筆頭に、その妻に扮した中北千枝子、保険外交員役の平田昭彦、刑事役の西村晃などの脇役陣が比類なく充実していて見事。半世紀前の日本映画には、つまらない映画でさえもどこか記憶に値する独特の存在感がありました。

別にこの映画や、平成の御代の最新の映画がすべてつまらない、というわけではありませんが。


♪あら懐かし三菱がぶっこわした丸ビルがこの映画でよみがえる 茫洋