蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

滑川の生物調査


鎌倉ちょっと不思議な物語第209回
近所の滑川に散歩に行きましたら、神奈川県の委嘱を受けた河川調査会社の2名のスタッフが、川岸にどっかり座りこんで、すくい取った川の水をにらんでいました。聞けば神奈川県のすべての河川の生物調査をしているというのです。

お弁当箱2つ分くらいの大きさのアルミの箱を、川のあちこち、とりわけ岸辺の魚なんかがいそうなところにグイとつっこんで、そこに入った生き物を調べて、フィールドノートに書き込んでいくという、胸がわくわくするような素敵な仕事です。

2人のうち年配の方に、「なにがいましたか?」と興味津々で尋ねると、「ヤゴがいっぱいいますよ」とニコニコ顔で答えてくれました。きっと大学の理学部とか農学部、水産大学などを卒業した人なのでしょうが、ほんとうは私はこういう仕事を職業にしたかったのです。

「どうしてこんな寒い冬にわざわざ調べているんですか?」と尋ねると、
「もちろん夏も調査しましたが、冬場の方が魚も生き物も川床の地面にもぐりこんでいるから効率がいいんですよ」という返事。なるほどと得心しました。

次に「カワニナはどうですか?」と聞いてみましたが、「見当たらない」という返事。鎌倉はこの秋に大きな台風に襲われ滑川の上流から由比ヶ浜の河口まで2度ほど急流があるとあらゆるものを押し流しましたから、これから数年は天然鎌倉産のヘイケボタルは見られないかもしれません。

無口な若い方のスタッフがすくっている辺りを指差して、「ほら、そこのところに巨大なウナギがいて、うちの健ちゃんが両手でつかまえたんですよ」と私が自慢すると、

「ウナギはいますよ。この川は汽水性だから、ウナギもハヤもモズクガニも巻貝もみんな海から上がってくるんです。いくら台風がやってきても大丈夫。」と、その童顔のおじさんが教えてくれました。

私が「サケを見かけませんでしたか?」と聞くと、「滑川では見ないですね。もともと産卵もしていない川に、そんな魚が上がってくると困ったことになりますな」と最近のサケ逆上遡上現象を憂いていました。

 「横浜や川崎は高度成長期に一度河川は死んだんです。死んだ河川を無理矢理復活させたので、最近はすこし良くなった。そこへ行くと鎌倉の川はとてもきれいで生物も豊かですね」という調査おじさんの言葉を聞いて、その貴重な自然環境を大切にしなければと思ったことでした。


♪健ちゃんが大格闘して捕まえし巨大ウナギいまいずこ 茫洋