蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

梟が鳴く森で 第14回

kawaiimuku2009-12-22



bowyow megalomania theater vol.1


「普通の人、(普通の人の定義もキチンとしている訳じゃないけど)、普通の人ならそれこそ先天的に獲得している「状況の認知」「自他の関係の把握」「社会性の認識」といった知的ネットワークが、自閉症児者にはあらかじめ失われている。少しはつながっているにしても、そのネットワーク相互の配線は、そこここで断ち切られている。部品と部品、パーツとパーツ、脳機能と身体機能のすべてを統合するネットワークの弱さが、自閉症と言われる障碍の本質です。

だから自閉症の人っていい意味でも悪い意味でも「ゆるい人」。岳君もとってもゆるいんだけど、彼の脳の中のあちこちでほころびかけているニューロンの線と線を1本1本修復したり、回路のつながりを良くするために外部からいろんな刺激を与えたりすれば、少しずつ人並みになっていけると思うよ。

要するにリハビリだなあ。例えばプールで泳いだり、運動したり、ピアノをひいて脳のいろんな部位を活性化したり、電車ばっかりじゃなくて動物とか植物とか違うジャンルのことに徐々に関心を広げてゆくとか、お料理や図画工作をして手先をこまかく動かして逆に脳に対して刺激を与えていく……」

S先生は、ここでパイプをくわえて紫の煙をゆっくりと昼下がりの応接間に吐き出しました。部屋の中ではリヒヤルト・ワーグナーの舞台神聖祝祭劇「パルシファル」第3幕の聖金曜日の音楽が静かに流れていました。


♪破綻せし御国の御蔵支えんと国債需めし愛国者われ 茫洋