蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

06ザルツブルク音楽祭ダニエル・ハーディング指揮「ドンジョバンニ」

♪音楽千夜一夜第126回

モーツアルトイヤーの記念すべき演奏なのにどうしてこんな技術も経験もない若僧にこの名曲の演奏をゆだねるのかその真意がわかりません。

冒頭の序曲の最初の和音のうすっぺらで軽薄な鳴り方を耳にしただけで悪い予感が走り、それは最後のドンジョバンニの地獄落ちで最終的に確認されました。

題名役に巧者のトマス・ハンプソン、ドンナ・アンナにクリスティーネ・シェーファー、レポレロにイルデブランド・ダルカンジェロ、ドンナ・アンアにメラニー・ディーナー、ドン・オッタヴィオにピヨートル・ベチャーラなどという布陣はそれほど見劣りするものではなく、それどころか他のヴェテラン指揮者ならかなりの好演が期待できたと思うのですが、ともかくこのチンピラあんちゃんの程度がひどすぎる。短距離競走の選手のようにむやみやたらに猛烈に飛ばすのです。モーツアルトの音楽の意味や美しさをぜんぶ棚に上げて……。

こんな乱暴で浅はかな指揮者に付き合わされているウイーンフィルもいい迷惑です。演出はマルチン・クシュイという人ですが特にどうということもなし。モーツアルトが見たらきっと落ち込むだろうという世紀の凡演でした。

ところが最近FMで聞いた彼のヴェルディ「レクイエム」の出来映えの素晴らしかったこと! この人はたまたまモーツアルトが下手くそであっただけなのかもしれません。


♪久しぶりにどんべえ食べたら吐き気を覚えたよ 茫洋