蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

西暦2010年卯月茫洋花鳥風月人情紙風船


ある晴れた日に第75回


くねくねと走るキャメラはわが腸の白きポリープを探り当てたり

うねうねと突き進んだる内視鏡わが白きポリープをズキンとちょんぎる

下腹にズンとくる衝撃と共に断ち切られたるわが白きポリープ

目の前のモニター画面の真ん中で断ち切られたり10ミリのポリープ

次々にわれらの夢が消えてゆく大きな夢も小さな夢も

どこか夢を売っているところを知りませんか 

昔のあんたはすごかったうれしがらせて泣かせて消えた

眼の前で大口開けて寝る男理由なく憎く思う電車の内かな

歯磨きの代わりに入歯接着剤で磨きたる息子の口を急いで漱ぐ

厳めしき教授の顔をよく見れば丹波の洟垂れ小僧なり

久しぶりにどんべえ食べたら吐き気を覚えたよ

朝日差す歩道の端に横たわる灰色の猫はびくともついに動かず

図書館で古今著門集借りた老人の自転車は錆びていた

恵比寿駅午後2時40分空っぽのNEXが通過する

町内の怪しき者は通報せよとパトカーが喚いている恐るべき警察国家ニッポン

はまぐりの実を捨てたなと息子を怒る

腹立ちて息子を怒鳴りつけたれば1日パソコン動かざりけり

母上のグリンピースの混ぜご飯妻が作りて食べさせてくれたり

母上の大好物のグレープジュース食わずになりて久しきことなり

春になったら由良川へ行こう
岸辺では善チャンがサクラマスを釣っているだろう

ガンクロの娘美白になりて娘と歩いてる

哀れまた美女に食われし文士かな

歌っても歌わなくてもいずれは沈黙



♪卯の月は死に物狂いで生き抜けり