蝶人戯画録

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バーンスタイン指揮・ウイーンフィルで「運命」「田園」を視聴する


♪音楽千夜一夜 第137夜

昨日に続いてやはり定評のあるコンビによる70年代のベートーヴェン演奏です。

「運命」は1977年9月にウイーン・コンツエルトハウスで、「田園」は翌78年11月にムジークフェラインザールで行われたライブを収録しており、「レオノーレ序曲第3番」がおまけについています。

私はこの輸入盤のレーザーディスクをなんと大枚4380円!をはたいて購入していますが、いまなら同じ値段で同じ演奏によるD?Dのベートーヴェン全集が買えるでしょう。デフレと技術革新の進歩はとどまるところがないようですが、当然ながら演奏は昔日の水準のままでとどまっていて、それが名演奏家の演奏の歴史的価値とその限界を同時に伝えるアーカイブとなっています。

平凡な「運命」と比較すると「田園」の演奏はじつに丁寧にベートーヴェンのスコアを再現していて、ウイーンを舞台に活躍したこの作曲家への共感と愛情にあふれた名演奏には違いありません。
「運命」のコンマスのライナー・キュッヒルは指揮者の急激な加速についていくだけで精いっぱいですが、「田園」におけるヘッツエルは余裕綽々。バーンスタインの名代としてまるで指揮者のように身振り手振り全身を揺らしながら弓を高く掲げてウイーンのオーケストラをリードしてゆきます。

このような指揮者以上の指揮ができるコンサートナスターは、ウイーンフィルのみならず世界中で跡を絶ちました。1992年7月29日のザルツブルグ近郊ザンクト・グルゲンでのゲルハルト・ヘッツエルの滑落死は、惜しめてもあまりある大きな損失であり、光輝あるウイーンフィルの歴史はまさにこの瞬間から腐敗と堕落の道を辿ることになったのでした。


手のひらを返すがごとく生きており 茫洋