蝶人戯画録

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ピーター・セラーズ演出で「コシファントゥッテ」を視聴する


♪音楽千夜一夜 第138夜


原作が想定する物語の時代や空間に従わず、恣意的なTPOを任意に設定し、物語の書き換えを図ろうとするオペラの新演出がいつごろから始まったのかは分かりませんが、少なくとも私がその「新しい演出」に接して驚いたのはこのレーザーディスクに収められたピーター・セラーズモーツアルト作品からでした。


この作品は、当初ニューヨーク州立大学が主催する国際パフォーミングアートフェスティバルで上演されたものをピーター・セラーズ演出で1990年にスタジオでライブ収録されたものですが、いきなりカメラはNYからマイアミと思しき海辺に車とともに疾走し、その名もレストラン「デスピーナ」に到着したところからドラマが開始されます。

ドンアルフォンソは「デスピーナ」のオーナーで2組のバカップルはこの安レストランに出入りするお姉ちゃんとお兄さんという設定です。そういう軽佻浮薄なアメリカンという下世話な世界から立ちあがったこの安直なはずの「西洋取り変えばや物語」は、後半男性二重唱で「女はこうしたもの」が歌われるあたりから次第に深刻な様相を呈し、男と女の間を隔てている深くて速い川の運命的な葛藤が、私たち観客の心の中にもひやりと冷たく流れ込むようになるのだから、才子才に溺れがちなピーター・セラーズの演出もまんざら捨てたものではありません。

クレーグ・スミス指揮ウイーン交響楽団の劇伴も、モーツアルトの天才的な楽譜を損なわない程度には自然な流れをつくって、セラーズのやりたい放題の演出をきちんと下支えしています。


♪リークッスンが言った。おやお前丸腰じゃないか?キム・イルソンも言った。ゲイリークーパーをきどっているんだろうよ。ヤーポンよ俺たちはお前さんを武装解除しちゃうぞ。茫洋