蝶人戯画録

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グラモフォン盤「シューマン全集」を聴いて


♪音楽千夜一夜 第152夜

ショパンと並んで今年はロベルト・シューマン(1810-1856)の生誕200年記念に当たるためにこのような大きなコレクションが続々発売されています。

交響曲はガーディナーと革命浪漫交響楽団の演奏ですが、ロマン派を古楽器で演奏するのは邪道につきゼロ評価となりますが、フィッシャア・デイスカウとエッシェンバッハを主力とする歌曲大全集が抜群に面白く、シューベルトと同様やはりロベルトは歌の詩人であることがよく理解されます。シューベルトシューマンも歌曲においてもっとも重要なな仕事ができたわけで、その他のジャンルの作品は別になくても構わないと放言したら本気で怒るひともいるのでせうね。

時折エディト・マチスの可憐な声も入ってくるのですが、バリトンとソプラノに寄り添うエッシェンバッハのピアノ演奏の見事なこと。全35枚のうちでこの9枚の歌曲集がもっとも聴きごたえがありました。

ともかく1枚258円の廉価版なのであとはおまけのつもりで聴きましたが、室内楽のハーゲンカルテット、私のひいきのボーザールトリオ、クレメル&アルゲリッチも悪かろうはずがありません。ピアノの名曲の多くをポリーニが弾いていますが、牛刀割鶏の嫌いあり。シューマンの含蓄ある音楽をどうしてこのような神経衰弱患者が弾き急ぐのでしょうか。この名人は(ミケランジェリと同じく)音楽に無知なピアノの技術屋にすぎず、ショパンだろうがベートーヴェンだろうがシューマンだろうが同じことで、ただただ物理的な音響の連鎖を切ったり張ったりして粋がっている。

げいじゅつなんて昔も今も河原乞食の芸、サーカスの曲芸、いかがわしい小手先の魔術とおんなじなんだから、それすらわかろうとしないなまじインテリゲンチャンな藝術家がいちばんハタ迷惑なのです。この男はもいちど生まれ直してきてバックハウスコルトーサンソン・フランソワやホロビッツ、ポゴレッチ、サイなどのアホなところをたっぷりと外部注入しないと、世の心ある人は聴いてくれんだろう。いまだまされているのは耳無芳一的トウシロウばかりだよ。

音響には強いが音楽とは無縁の世界でボケることさえできずに醜態をさらしているポリーニと比べると明らかにシューマンらしい音を並べていたのが意外にもアシュケナージ。どこのオケを振っても下らない演奏しかできない指揮など一日も早くやめてもっとピアノの録音をいれてほしいと思いました。(これはエッシェンバッハバレンボイムも同様)。

シューマンの象徴の森深く分けて入る 茫洋