蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

サム・ペキンパー監督の「ゲッタウエイ」を見て

kawaiimuku2010-11-10


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.48

1972年にサム・ペキンパーがスティーヴ・マックイーンとアリ・マッグローを起用して撮ったこれまた銀行強盗のお話です。同じ銀行強盗物でもさすがにノーマン・ジェイソンの「華麗なる賭け」のよた話とは違って骨太のドラマに仕上げているのはさすがです。

はじめってこの映画を見たときはショットガンを乱発するマックイーンの銃撃シーンの凄まじさに衝撃を受けましたが、今回はまるで印象に残りませんでした。ペキンパーが先蹤となった当時の過激描写は30余年の歳月を閲して衛生無害のアクションシーンへ昇華されたのでしょう。

今回改めて観賞して気付いたのは「男女の愛の試練」というこの映画の主題です。マックイーンを監獄から出すためにマッグローが払った肉体の代償をめぐる夫婦のいさかいと精神的なダメージは延々と続き、ようやくラスト近くなって曙光が差し始めるのですが、ペキンパーらしからぬこのハッピーエンディングに対して、マックイーンがクレームをつけたというのは分かるような気がします。

「ゲッタウエイ」とは牢獄からの脱出であると同時に、疑惑と嫉妬と憎悪からの離脱の物語でもあるのです。


秋冷に堪え咲き誇るなり薔薇一輪 茫洋