蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

アンドリュー・ソルト監督の「イマジン」をみて


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.79

ご存知ビートルズジョン・レノンの100時間におよぶインタビューと過去の映像を編集して完成したファン必見の1998年製メモリアル映画です。

リバプールのライブハウスでうろうろしていた彼ら4人組が世界のトップスターに成り上がった背後には、時代と音楽の先をよむに長けていた俊英プロデューサー、ブライアン・エプスタインの存在がやはり大きかったようで、彼が32歳で若死にしてからはもはやビートルズの解散は避けがたかったと思われます。

しかしこの映画を見ていると、ビートルズ、なかんずくレノンの真髄は、カブト虫組解散以後にあったことがよく分かります。「酒、歌、女はた煙草」と詠んだ佐藤春夫に倣ってドラッグやインドや愛と平和運動やオノヨウコなぞの生と性の妄動と親しく交わったレノンは、1971年に代表作IMAGINEを発表します。

そのメロディも歌詞もこれ以上ないくらいシンプルなものですが、天国や地獄や財産や国家や、生死を取り扱ったフレーズから浮かんでくるのは、「愛と平和こそ第一」と公言するこの人の、そのじつきわめてアナーキーな思想です。

かつてキリストや地上の権力を公然と否認した希代の革命家は、楽曲IMAGINEの中で己を夢見る人とちゃかしながら、じつは現世の愛と平和すらてんで信じていなかったのではないでしょうか。


愛と平和を歌うことなぞ迚もじゃないけど恥ずかしすぎて 茫洋