蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

クリス・マルケル監督の「ラ・ジュテ」をみて


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.91

1962年制作のフランスのSF映画です。舞台は第3次世界大戦後のパリ。あらすじはこれもウイキペディアからまるごと引用すると、

「廃墟と化し、戦争を生き延びた数少ない人類は、勝者の支配者と敗者の奴隷に別れ、地上から地下へ逃れて暮らしていた。科学者たちは「過去」と「未来」に救済を求め、奴隷を使った人体実験で時間旅行を試みるが、実験結果は、どの奴隷も廃人になるか死亡し、失敗に終わる。しかし、新たに選ばれた、少年時代の記憶に取り憑かれた男は、人体実験の末、「過去」に送られるのだが、正常なまま帰還する。実験は繰り返され、男は何度も「過去」へと送り込まれる。彼は少年時代にオルリー空港の送迎台で、凍った太陽とある女の記憶を心に焼き付けていた。そして、記憶の中の女との再会を果たす。一連の実験の成功を受けて、男はついに「未来」から医薬品などを持ち帰る任務が与えられ、「未来」へと送られる。そして、ついには世界を救うエネルギーを「未来」から持ち帰る事に成功するのだが…」

という、分かったような分からないような、つまりは典型的なステレオタイプのSF映画といえるでしょう。普通のSFと違って特殊合成をせずに通常のロケシーンを幻想的・回顧的・未来的に見えるようにつないでゆくのですが、同じような手法で異次元へとあざやかにトリップしてみせたゴダールの「アルファビル」に比べればその出来栄えの貧弱さは一目瞭然です。

しかしもしかするとゴダールは、この実験的な作品をヒントにしてあの素晴らしいSFを短期間で完成したのかも知れません。

口を「あ」の形にして死んでいった少年 茫洋