蝶人戯画録

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ヒッチコック監督の「泥棒成金」をみて


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.104

1955年のヒッチ作品で、ケーリー・グラントグレース・ケリーが主演するサスペンス恋愛映画。作品の出来栄えは良くないけれど、ともかくエディス・ヘッドがスタイリストを務めた華やかなイヴィニングドレスなどを見ているだけで溜息が出るような美しさである。

「銀幕のスタア」とは、こういう人がこういう衣装、アクセサリーを身に付けた艶姿のためにとっておく言葉なのだろう。かくしてカンヌの夜空に打ち上げられる花火の下の暗闇で光る白銀のネックレスの輝きは、映画史上不滅のものとなった。

しかしロングでは眩しいまでのエレガンスをほしいままにするグレース・ケリーだが、顔のクロースアップになるといかにもヤンキー&ガーリーな、つまりフィラデルフィアの田舎もんの表情になってしまうあたりが面白い。

クール&キュートという相反する両面を併せ持つ彼女の魅力にモナコのアホバカ殿下は一発でやられたんだろうぜえ。

風光明媚な映画な地中海の海や別荘を背景に美男と美女が繰り広げる恋の駆け引きの中で、一度は男が女の肘を、もうひとたびは女が男の肘を強く引き、ぎゅっと握りしめるシーンが本作のキーポイント。異性が、あそこを、ああいうふうに触れると、どのような恋の異化作用が惹起するのか、この喰わせ者の監督はよーく知っていたんだ。


     肘は秘事カンヌの夜空に花火舞い散る 茫洋