蝶人戯画録

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大津透著「天皇の歴史01神話から歴史へ」を読んで


照る日曇る日 第424回


歴史上実在したと確認できる本邦最初の大王はワカタケルであり、この人物が「記紀」の伝える雄略天皇であることは教科書なんかにも書かれている。

しかしワカタケルのような、かつて大王と呼ばれた統治者が、その前代の卑弥呼や倭の五王などを含めて、いつ、どのような経緯と因果の関係で今日「天皇」と称されるような存在に転身していったのかについては諸説芬芬としている。

本書では天皇号の成立を、国号「日本」成立とほぼ同時期の推古女帝の時代に求めているようだが、これだってほんとうのことかどうかは五里霧中の話なのである。

大胆な仮説の提示とその情熱的な検証のない歴史書を読んでも、まるで血を血で洗うようなもので、一向に白い骨格が浮き彫りにされないから、長らくこの方面の追究を放擲していたのだが、頭の良いインテリゲンチャンが古今の高論卓説をつぎはぎだらけにレポートしたこの本を読んでも、脳味噌いっぱいに春の花が咲き誇っている愚かな私には相変わらず神話時代の歴史なんててんでよく理解できなかったのであった。


脳味噌いっぱい花が咲くオレンジスイカバナナ咲く 茫洋