蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

「田村隆一全集」第3巻を読んで


照る日曇る日 第426回&ある晴れた日に第89回


深い海の底で、もう一度桜を見たいねという声がした。

朝はコーヒーとトースト、昼は「笑っていいとも」を見ながら生協の関西風キツネうどん、夜は肉じゃがとご飯とみそ汁とデザートにイチゴを食べて、の寅さんの映画を一本見てからお風呂に入り、「いろいろあったけど、今日もなんとか一日終わったね」などと言いながら、親子三人枕を並べて朝の七時までぐっすり寝ていたかったという声も確かに聞こえた。

私には今日もいろいろあってそれなりに楽しかったが、そのいろいろが突然無くなる日が誰にも訪れると改めて知った。

しかし波一つない海岸には大きく傾いた一本の松の木だけがしきりにそよいでいるだけ。神の不在は、いつまでも続くのであるか。やはりこの世には神も仏もないのであろう。

四月は残酷な季節。太陽が宙天に達した頃、カワナゴの大群が少女たちの黒髪の林を潜り抜けていく。


憂いつつタンポポの道歩みたり 茫洋