蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ジェームズ・アイボリー監督の「日の名残り」を見て

kawaiimuku2012-07-06


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.271

カズオ・イシグロの小説をハロルド・ピンターが脚色し、ジェームズ・アイボリーが映画化した威風堂々の文芸映画。主人公の執事を演じるアンソニー・ホプキンスと女中頭役エマ・トンプソンの好演でいにしえの英国貴族の面影が鮮やかによみがえった。

おそらくここに登場するダーリントン卿のような英独協調路線からナチ擁護へ傾斜していった善意のエリート層が存在し、それはチェンバレン内閣の融和政策をもたらしたのだろう。

そんな主義主張を抱く雇用者の思惑とは無関係にひたすら忠誠を尽くして止まない執事的な存在とはある意味では妖怪のごとく亡霊の如く奇怪な複式複製動物と呼ばざるをえない。

かくの如く己をして自縄自縛の鋳型にはめこんだ男は、異性への素直な恋情をも見事に圧殺してはばかることがなかったのである。


おじさんが頭を掻いてやると純ちゃんはうっとりと眼を閉じていた 蝶人