蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

アナトール・リトヴァク監督の「さよならをもう一度」を見て

kawaiimuku2012-07-16



闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.277&♪音楽千夜一夜 第271回


歌を忘れたカナリアのような夫イヴ・モンタンのつれなさにいたく傷つき、「踊れないダンボ」のような鈍い演技を見せるイングリッド・バーグマンが、神経衰弱患者のようなエキセントリックな演技で応える年下のアンソニー・パーキンスと浮気するが、やっぱり元の鞘に戻る話。

原作はむかし熱病のようにもてはやされたおフランスの通俗三流作家フランソワーズ・サガンの「ブラームスはお好き」で、どうして人気が出たのかといえば名前とタイトルが良かったとしかいいようがない下らない三文小説だ。

二人が逢い引きするのがサル・プレイエルで行われたブラームスの演奏会で、その他幾度となく第三交響曲第三楽章のポコ・アレグレットが鳴り響くが、このような通俗映画の主題歌に引用されたのではブラームスが可哀想だ。

人世でいっとう大事なことは額に汗して働いて生計を立てて一人静かに死んでいことなので、それすら出来ない高等遊民が愛のない生活は地獄だとか生きている値打ちがないなどと抜かして不倫に走ったりそれでも満たされないであらぬ妄想に耽ったりするのはいかがなものか。左岸のサガンのような連中にはいまでも虫唾が走る。


薔薇が咲く港に浮かぶイージス艦YOKOSUKAは今日も仮想敵と戦う 蝶人