蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

シドニー・ポラック監督の「愛と哀しみの果て」を見て

kawaiimuku2012-09-21



闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.314


原題の「Out of Africa」にこのような紋切り型の愚劣な邦題をつける映画会社の神経を疑うが、広大なアフリカの原野に流れるモーツアルトの音楽が印象的である。

以前鑑賞した時はてっきり二三番のピアノ協奏曲だと思っていたのだが、そうではなくてシフの演奏によるトルコ行進曲やジャック・ブライマーによるクラリネット協奏曲などであることが分かった。人の、否私の記憶なぞあてにならないものである。

メリル・ストリープはひたすら美しく、ロバート・レッドフォードはひたすらカッコ良く、やがてヒーローはケニアの大空に消え、ヒロインはコーヒー農園を畳んで故国デンマークに帰るのだが、一等強烈な印象を与えるのはアフリカの大自然の素晴らしい光景であろう。

この映画を見ながら私は、若くして不慮の事故で死んだ作家の景山民夫さんのことを思い出した。彼も私も障碍のある子を持つ身で、同病相哀れむではないがお互いの苦労を語り合っていると、当時アフリカのケニアにホテルを造ったばかりの編集者の小黒一三さんが、「んなものアフリカに来れば一発で治ってしまうさ」と彼一流の言い方で慰めてくれたことがあった。

わたくしの長男のカナー氏症候群の原因は「病気」ではなく、脳の先天的な機能障害である。残念ながら最新医学による手術や薬品でもいまだ治療することは叶わないのであるが、その時アフリカの生んだ天才的画家ムパタの名を冠したそのホテルの窓を開け、サバンナを疾走するキリンとライオンの姿に呆然としている彼の姿がふと脳裏を過ぎったことだった。 


窓を開ければマサイの戦士がライオンを狩るアフリカケニアのムパタホテルよ 蝶人

*本日の特別付録は、この映画の原作「アフリカの日々」の書評です。

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