蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

シドニー・ルメット監督の「十二人の怒れる男」を見て

kawaiimuku2012-10-11



闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.327

一人の少年の父親殺人疑惑事件の陪審員として呼びだされた年齢も、生まれも育ちも、思想も暮らしもまちまちな12人の市民が繰り広げる密室内の討論劇である。

状況証拠から予断に囚われ、はじめはヘンリー・フォンダ一人を除いて全員が有罪を確信していたのだが、疑問を懐いたこの建築家がひとつひとつの問題点を解明していくそのプロセスが、スリルとサスペンスを呼ぶ。

有罪説と無罪説の論理的な戦いというよりも、猛暑にいらだち、野球や私事にかまけて早く評決して帰宅したい多くの普通の市民たちと人間の生死に誠実な判断を示そうとする一人の男の良心のせめぎあいが、この映画の主題である。

最後まで反対し続けるリー・J・コップの孤独な心情がまことに哀れであるが、一二名の無名の市民の良識に一人の人間の命運を託す合衆国の法的制度の素晴らしさと恐ろしさを、二つながらに体感する映画でもある。


朝っぱらからオオミズアオの幼虫を4匹も殺してしまって気色悪し 蝶人