蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

リュック・ベッソン監督の「サブウェイ」をみて~「これでも詩かよ」第74番

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ある晴れた日に第223回&闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.635

 

 

ビヤンヴニュ! 

ようこそモンパルナス・ビヤンヴニュ駅へ!

ようこそ黄泉の国へ!

 

地下鉄に轢き殺された人たちは、みな地下鉄の下に隠れ住んでいた。

ACミランの本田選手のように黄色い髪の毛のクリストフ・ランベール、

蒼ざめた頬のイザヴェル・アジャーニ

 

颯爽とローラースケートで疾走するジャン=ユーグ・アングラード、

花売り男のリシャール・ボーランジェ、

そして激しくドラムを叩くジャン・レノ

 

彼らは黄泉の国の住人となって、地上と地下を行き来していたのである。

この世のはずれ者たちを懸命に追う素っ頓狂な刑事や警官も、みなこの暗黒の地下室に寝起きしながら、朝から晩まで意味不明のおっかっけっこをして遊んでいる。

 

ああ、またしてもメトロの急ブレーキの音が聴こえる。

猛烈なスピードで走っていたバットマン刑事は、追跡の職務を放棄して、その場で立ちすくむ。

 

火花を発した鉄の輪が悲鳴を上げて静止すると、また一人の新人がこの闇の国の住人となる。それは男か女か。若いか年寄りか。

敵も味方も息を凝らしてその人物が姿を現すのを待っている。

 

ああ、どんどんどんどん人死にがでるね。

安西マリアも安西水丸も死んだ。「東京の地霊」の鈴木博之も死んだ。

伊勢丹の元バイヤーも死んだ。クラウディオ・アバドも死んでしまった。

 

明日もまた有名無名の人々が死んでゆくのだろう。

そうして人々が地上から姿を消すにつれ、

地下の黄泉の国はますます賑やかになってゆくのだ。

 

ビヤンヴニュ! 

ようこそモンパルナス・ビヤンヴニュ駅へ!

ようこそ黄泉の国へ!

 

 

なにゆえに今年の春はまだ来ない我が家の桜がまだ咲かぬから 蝶人