蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

佐倉の雨~「これでも詩かよ」第89番

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ある晴れた日に第244回

 

 

雪子さんから、父方の叔母が亡くなったと知らされたので、

千葉県の佐倉というところまで、お通夜に行きました。

 

その日は、一日中雨でした。

佐倉へ行くのは初めてです。

 

佐倉の駅前は無人でした。

この世から忘れられたような、とても静かな街でした。

 

94歳で亡くなった叔母は、あどけない少女のような顔をしていました。

かすかにほほえんでいました。

 

はんにゃはらみた ぎゃていぎゃていはらぎゃてい

天台宗の若いお坊さんが、お経を唱えてくれました。

 

彼は「お通夜は故人を生き返らせる祈りをするためのものでもある」といいました。

しかし私は、その祈りはしませんでした。

 

叔母は「わたしもうあっちのほうへ行きたいの」と呟いていたそうです。

その願いどおりに、彼女はあちらの世界へ行きました。

 

あちらには、彼女の両親も兄弟もいるでしょう。

そのなかには、私の父もいるのです。

 

はんにゃはらみた ぎゃていぎゃていはらぎゃてい

天台宗のお坊さんが、お経を唱えています。

 

読経の間に、叔母さんと父の声が聞こえました。

「けえから出かけますよ」「はよきんさい」と、倉敷の言葉で話していました。

 

ああ、懐かしい人は、どんどんあちらへ移ってゆく。

もうしばらくしたら、私もそちらへ参ります。

 

はんにゃはらみた ぎゃていぎゃていはらぎゃてい

天台宗のお坊さんが、お経を唱えています。

 

はんにゃはらみた ぎゃていぎゃていはらぎゃてい

私もみんなと一緒にお経を唱えました。

 

 

なにゆえに朝日は右翼誌の広告を載せている誹謗中傷されてもなお 蝶人