蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

トム・ハンクス監督・主演の「アポロ13」をみて

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bowyow cine-archives vol.655

 

 

かのアームストロング船長のように月を歩きたいと願った宇宙飛行士が、飛行船の突発事故に出遭って、地球で待つ愛する家族の元へ無事に帰還したいとそれだけを望み、スタッフの超人的努力によって奇跡的な生還を果たすという、実話にもとづいた一大冒険物語。

 

他の飛行と違ってほとんど科学的な成果をもたらすことはなかったにもかかわらず、当時この「アポロ13」事件が全地球的な話題を集めたのは、まず酸素が無くなり、次いで炭酸ガスが増加する、再点火できるかどうか疑わしいという絶望的な状況を乗り越えて、衆知を結集すれば不可能が可能になるという、しばらく忘れられていた人間の知恵というものが再確認されたからではなかっただろうか。

 

それにしてもこの映画に限らず、死に瀕した人間の唯一最大の望みが、「愛する家族と共にあること」、などという、ふだんなら歯牙にもかけずほとんどその有り難さを顧みることすらない日常的なまことにささやかな幸福の奪還にあることは、覚えておいていいことだと思う。

 

それゆえに私たちが出かける時には、必ず家族に今生の思いで「いってきます」と声を掛け、「いってらっしゃい」と祈るように答えることを忘れてはならない。

 

 

なにゆえに「ごきげんようさようなら」と挨拶するのもう二度と会えないかもしれないから 蝶人