蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

マイケル・ホフマン監督の「終着駅 トルストイ最後の旅」をみて

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bowyow cine-archives vol.734

 

 

世界的な文豪のむごたらしい最晩年を、近侍した主人公の若き秘書の目を通してドキュメンタリー風に描く英語で喋る独露合作映画。

 

貴族でありながら農奴を解放しより自由で平等な理想世界を夢みる老作家と彼の思想に心酔するトルストイ主義者のリーダー、そして夫を愛し遺産を武者小路実篤の「新しい村」みたいな新生活運動に簒奪されまいと頑なな態度を取る彼の妻。

 

そして若き主人公はその両者の板挟みとなって苦悩するのだが、この3つの立場がじつによく分かるように描かれている。

 

結局妻のヒステリーを逃れて家出した哀れな老作家は、寒村の駅の近くで息を引き取るのであるが、もしもこの細君にもう少し謙虚さと冷静さと常識があったなら、トルストイ翁もここまで追い詰められなくて済んだであろう。

 

いつの時代も、凡人は天才より強いのである。

 

 

 きのうきょう何ひとつよきことなけれども紅白のサザンカふたつ咲きたり 蝶人