蝶人戯画録

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井上ひさし著「井上ひさし短編中編小説集成第4巻」を読んで

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照る日曇る日第763回

 

「新釈 遠野物語」と「浅草鳥越あずま床」に加えて単行本未収録の後者の続編のおまけつきであるが、なんといっても「新釈 遠野物語」の変幻自在な空想力と構想力の妙に感嘆讃嘆させられる。

 

 佐々木鏡石のカタリを柳田國男がまとめたものが、「遠野物語」であるが、井上の「新釈 遠野物語」は、訳あって遠野近辺の療養所で働く若い主人公が、近くの山中に住む不思議な老人、犬伏太吉と知り合いになり、その波乱万丈の身の上話を聞くという設定になっている。

 

 柳田國男の「遠野物語」を前振りし、その説話を部分的に引用する振りをしながらも、「井上版遠野物語」は、それを換骨奪胎させて独自のカタリ、独創的な小説世界を顕現させてゆくのである。

 全体は「鍋の中」「川上の家」「雉子娘」「冷し馬」「狐つきおよね」「笛吹峠の話売り」「水面の影」「鰻と赤飯」「狐穴」の連作9編から成っているが、たとえ民俗学的価値は皆無であっても、読物としての面白さは抜群で、本邦屈指のストーリーテラーの真価真髄は、この9編にことごとく凝縮されているというて過言ではない。

 

 

誰か何か言ってやって「私は何をどう頑張ればいいの」と訴えるパニック障害の人に 蝶人