蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

西暦2015年霜月蝶人花鳥風月狂歌三昧在庫処分編その2

f:id:kawaiimuku:20150812151244j:plain

 

ある晴れた日に 第343回

 

 

ノアという箱車ボックスカーが走り去る選ばれし家族とプードル乗せて

 

要するにただの白い車じゃないかライムホワイトパールクリスタルシャインカラー

 

車などみな似たりよったりなれど買う人が無理矢理個性をつける

 

或る夜に大イノシシが現われておっとり刀の猟友会員

 

一身の都合にて入社し一身の都合にて退社していく人はみな

 

同じニュースを朝から晩まで流しているテレビ局

 

 

親しげに皆が挨拶してくれるどこの誰だか知らない人が

 

癒された元気をもらいました等々々手垢に塗れた言葉を使うな

 

真夜中の凍結を防ぐために自らを暖めているひとりぼっちの我が家の風呂よ

 

滑川に落ちた緑の手袋よ五指を開いて我に訴う

 

「外国人出て行け」と君が叫ぶたび「日本人出て行け」と返るこだま

 

暗黒の帝王が君臨する我ら今ゴッサムシティの住人 

 

この道はいつか来た道愚かなるわが民草がたどりたる道

 

世界一平和な国になるためにあらゆる武器に別れ告げしが 

 

改正にあらず改悪である悪しき憲法を作るのだから

 

原発に賛成もせず反対もせぬ人こそが国運を握る

 

「ねえあたしの遺影撮ってよ」というファインダーの先の義姉の笑顔

 

親しげに皆が挨拶してくれるどこの誰だか私は知らない

 

もう二度と会うまい人の手を取りて長い長い握手をしにけり

 

グルグルとレントゲン台で踊ってる古稀の男の胃検診サーカス

 

とある日とある街でそれは起きるだろう前代未聞の奇跡や災厄

 

「でもスタップ細胞はあるかも」言いながら自転車を駅まで走らせる

 

共同体の熱きほてりを遠ざかりゴールポストに消えゆく球見る

 

ヒューヒューと喉元過ぎる音さえも明石家さんまは笑いに変えて

 

ただ一首天下を揺るがす歌詠めば冥土の土産に旅立つものを

 

「今がいちばん若いのよ」と妻が励ますどんどん歳をとりゆく私

 

バルテュスの夢見る少女テレーズの白いパンツがどうにも気になる

 

ただ一本の蓮の蕾が咲かざりき

 

絶望は希望に似たり寒昴

 

歳時記をバイブルにしながら生きて行くなんておいらにゃ到底出来ないよ

 

曇天の空より落ちる雪の片障がいの子もまた天の贈物

 

モンシロなどつまらぬ蝶と思いしがいつか消えゆくしかと見ておく

 

 

  みずからの死ぬべう夕べに着る服を夢の中にて考えているなり 蝶人