蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ブレッソン監督の「ラルジャン」を観て

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闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.517

 

 

偽札をつかまされた善良な市民が怒り狂って、おなじく善良で無辜の市民をまさかりで殺戮するもんだろうか? なんどみても私はここでつまずく。されど殺意は悪人善人を問わずすべての凡人の心底に潜在しており、むしろ善人の殺意の中にこそ殺人の本質は明確に姿を現すのだろう。誰にでもある殺人への意思。なれど実行となれば、話は別だと思うのだが。

 

ドストエフスキーならぬトルストイの原作とは、ちょっとした驚き。考えているうちにだんだん怖くなってしまう。俺だってやるかも。

 

いまの凡百の映画なら青年がまさかりを振り上げたあとの血まみれの軌跡を克明に映像化するのだろうが、さすがに哲理の人ブレッソンはそんなバカなことはしない。

 

布団干し前後左右にひっくり返しその合間に青空を見る 蝶人