蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

クリント・イーストウッドの「パーフェクトワールド」をみて


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.92

1993年にクリント・イーストウッドのメガフォンと助演、ケヴィン・コスナーの主演で映画化された問題作品です。

この映画の主題は親子のパーフェクトな関係、あるいは理想的な父親像について考えてもようよ、ということだと思うのですが、映画の中でその答えがうまく出たとはいえず、ますますこんがらがってきたという印象が強いのです。

刑務所から脱走してテキサスの警官イーストウッドに追われるケヴィン・コスナーは、父親から虐待された暗い過去を持つ男です。彼が逃亡の途次でひょんなことから人質にとった少年も、早くに父親と死に別れ、「ものみの塔」に属する母親の元で育てられた影が、根深く巣食っています。

そこで奇妙なことに、いくども逃げる機会があったにもかかわらず、コスナーに理想の父のイメージを仮託し幻想した少年は、コスナーをどこまでも慕い続けるのです。しかし少年は、かつて父親に虐待された逃亡犯が、同じようにわが子を虐待する黒人に逆上していまにも殺そうとするのを見て、思わず拳銃の引き金を引いてしまいます。

この映画の中で、ケヴィン・コスナーは基本的には善人なのですが、凶悪な父親にいじめられたトラウマに災いされて、激情に駆られれば殺人も犯してしまう情動的で不安定な人格の持ち主として設定されているようです。

そのことを知っている警官イーストウッドと相棒の犯罪心理学者ローラ・ダーンは、コスナーを自首させようと最後まで務めたのですが、結局FBIの冷酷非情な銃弾で息の根を止められてしまいます。

ふだんのイーストウッド映画らしからぬ後味の悪い幕切れです。


可笑しくもないのに笑うひとよと言いし女を訳も無く憎む 茫洋