蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

理想の死に方 


また日経からの引用で申し訳ないが、今日の夕刊の「プロムナード」欄に出ていた話。

著者の伊藤礼氏は、父親に似て、“朝寝して宵寝するまで昼寝して時々起きて居眠りをする”人であるようだ。

そして氏の父親である小説家・詩人の伊藤整氏ももちろん稀代の眠り男で、その日も
「ああ眠い…ああ眠い…」と、言いながら眠っていたそうだ。

そこで整氏の奥様が「いいのよ、眠いときにはゆっくりおやすみなさいよ」と言うと、それで安心して、すぐ息を引き取られたそうだ。

ああ、なんと素晴らしい死に方であることよ!

そしてこの短いエッセイは、次のような言葉で閉じられる。

「命日は11月15日で、この前後はいつも晴天がつづく」

私はこのくだりを読んで、晩年の中原中也が長男文也が生まれたあとで、「数週間にわたって日本全国晴天続く」と大書した日記のことを思った。