蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

鎌倉ちょっと不思議な物語12回


とても危険で観光どころではない鎌倉



家の近くに温泉?がある。
といっても熱海や箱根のような迫力はない。ドラム缶の中に地面から湧くお湯が溜まっていく天然の自噴井らしい。
もしかすると鎌倉唯一のミニ温泉かもしれない。(写真1)

あまり温度は高くないが鎌倉の天然記念物くらいの値打ちはあるだろう。この家の人はたぶん温泉のお湯で洗車しているのではないかなあ。

でも、こんなところでなぜお湯が出るのだろう? それには深い訳がある。

もとよりわが国は名高い地震国だからどこを掘っても1キロくらいの深さからお湯が出る。だから鎌倉に温泉があってもちっとも不思議ではないのだが、それだけではない。

おらっちが住んでいるこの十二所付近には地下にマグマの塊が潜み、13世紀中頃の鎌倉時代にマグニチュード8クラスの大地震が起こったのである。

当時日本の首都であった鎌倉には、1)頼朝が住んでいた鶴岡八幡宮付近の大倉幕府、2)頼朝が父義朝の墓地があった勝長寿院、3)実朝が蹴鞠を楽しんだ将軍別邸の永福寺、4)そして巨大な祭儀センターの大慈寺、と合計4つの重要施設があったが、この大地震のためにわが十二所の大慈寺を拠点とする壮大な七堂伽藍は一夜にして灰塵に帰した。(写真2)

長谷の大仏以前に造られた大慈寺の有名な大仏は、このとき首がぽっきりと折れてしまい、その首の残骸がいまの光触寺(一遍上人建立。頬焼き地蔵で有名)に安置されている。(写真3)

大慈寺跡には現在どういう風の吹き回しか大きなカトリック修道院が建っているが、この裏山の阿弥陀山が崩壊し、盆地の明石谷戸(いまうちのおばあちゃんが住んでいるところ)の地下全体が液状化状態になった、

そうである。(「吾妻鏡」&鎌倉市の発掘調査による)。

あれからおよそ750年。ついこないだの関東大震災をはさんで、鎌倉温泉の温度がじりじり上昇すれば、またまた鎌倉大地震が勃発する危険性はかなり高い。

いざ釜倉、地獄の季節よ、どーんと来い!