蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

アオサギとヘンゼルとグレーテル


鎌倉ちょっと不思議な物語16回


今日の午後、浄明寺郵便局に向かって道路の左端を歩いていると、イチョウサブレー製造所の入り口に大きなアオサギがいた。

道路の傍を流れている滑川にはときどきシラサギやゴイサギが魚を狙っている姿を見かけるが、こんなに大きいアオサギは初めてだ。

しかも川の中ではなくて舗装道路の上を両翼をふわりふわりと上下させながら歩いている。

私はあわてて愛用のデジカメを取り出してシャッターを切りながら、この日本産の最大のサギを追いかけた。

アオサギは軽快な足取りで民家の入り口まで前進しアーケードで覆われた屋根を見上げている。

しかし私はそれ以上追うと逃げ場を失ったアオサギが狭い空間で自傷することを恐れてその場を立ち去った。

サブレー屋さんの話では、「橋の欄干くらいまではやってくるが、こんなに接近したのは初めてだ。あんな神経質な鳥がどうしてこんな所まで」

と、とても驚いていた。

アオサギと別れてどんどん進んでいくと、泉水橋の先に奇妙な建物が見えてきた。

去年、いやおととしから気になっていた誰が建てたのかわからない謎の建造物だ。
全体はどちらかというとスペイン風の別荘のような感じである。

最初は普通の洋館かと思っていたが、どうも様子が変だ。色といい形といい、まるでヘンゼルとグレーテルのお菓子の館のようである。

本体が出来上がるまでに優に1年はかかり、それが一段落するや今度は写真左下の階段や東屋やガーデンがゆっくりゆっくり形作られていく。まるで時間も経費も気にしない手作りである。

いまでは部屋にカーテンもかけられ電気工事も終ったようだが、昼も夜も誰も住んでいない。

はじめはレストランは、ブティックか、それとも鎌倉によくある個人美術館かと想像したが、いまだもってよく分からない。

町内で話題の謎の不思議館である。