蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

畏るべし、友川カズキ


♪音楽千夜一夜 第18回

土曜日の夜に、NHK-BSの「フォークの達人」で友川カズキという物凄い歌手のうたを聴いた。

友川は1950年に秋田で生まれ、70年代から活躍していた詩人で、画家で、博打打で、歌手でもあるという。眉目秀麗な大酒呑み、だそうだが、一聴一見、とにもかくにも圧倒された。

ありふれた言い方だが、このように己の全存在を1曲に賭け、ギターを叩き付け、殴りつけ、己のはらわたをギターで掴んでは投げ捨て、捨て身の歌唱に生き様を晒すような歌い手が、この平成の御世にも残存していようとは、ああ不覚にも知らなんだ。

もっとも、彼を知らないのは私だけかもしれない。

が、遅すぎたにもせよ、このような魂を直撃する芸能者にようやく巡り合えた感動と喜びを伝えないわけにはいかない。

冒頭の「生きてるって言ってみろ」でショックを受けた私は、アンコールで歌われた中原中也の詩による「坊や」までの全17曲、1時間半の吉祥寺ライブを、ただただ口をあんぐり開き、よだれを垂らし、呆然自失して聴き惚れておりました。

こいつの前では吉田拓郎三上寛友部正人高田渡も到底敵ではない。まさに縄文人の魂の絶唱、絶叫であります。

生の跳躍が、そのまま、息も絶え絶えのうたになる。

歌うも命懸け、聴くも命懸けとは、げにこの人の音楽道であろう。

とても生半可に聞き流せない音楽を、この人はする。大量の焼酎を呷りながらシャウトする。飲まずには生きられぬ、飲まずにはうたえないという一見破滅型ながら東北人特有の図太く粘り強い冷静さも合わせ持っていて、その二重性もまた魅力的である。

「サーカス」、「また来ん春」、「坊や」など中也原作の詩に作曲したものもいいが、自作自演はもっとすごくて、素晴らしい。

「似合った青春」、「夢のラップもういっちょう」「おじっちゃ」の激情、「訳のわからん気持」「乱れドンパン節」のアナーキズム、「ダンス」「ワルツ」の退廃の美……
これを至高の芸術と呼ばずしてなんというのだ! 

石塚俊明、永畑雅人、松井亜由美、金井太郎など、元頭脳警察のメンバーを交えたバックの演奏がまたすごくて、素晴らしい!

NHKさん、またしてもいい死土産を見せていただきました。この放送はおそらく再放送されるだろう。また今すぐならYOUTUBEでもこれらの名曲の一部を視聴することができます。

友川カズキ、断じて逸すべからず!