蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ある丹波の女性の物語 第28回 結婚


遥かな昔、遠い所で第50回

 翌18年、京都のネクタイ工場は強制疎開でこわされてしまった。戦況は日に日に悪化していたが、国民には知らされていなかった。

 10月11日、東京本郷教会に於いて私は田崎牧師夫妻の媒酌により、根岸精三郎を養子として迎える事になり結婚式をあげた。

根岸家は倉敷市で古くから米問屋を営んでいたが、父は早死にし、店はすでに破産していた。

本人は兄弟姉妹合わせて11人きょうだいの七男であったが、その殆どが東京におり、元倉敷の牧師が仲人をして下さったのである。

精三郎のすぐ上の兄が綾部の丹陽教会へ伝道に来ていた事もあり、この話はスムーズにまとまったのである。結婚に先だって父は私をつれて上京、一応見合いをした。おとなしい養子タイプの人であったので、これなら父に従っていけそうだなと思った。


♪みんなみの 窓辺の床に 横たわり
 ひねもす雲の かぎろいを見つ

♪七十年 過ごせし街の 拡がりを
 初めて北より ひた眺めをり