蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ある丹波の女性の物語 第36回 ズンドコ節


遥かな昔、遠い所で第58回


 そんな暮らしが2、3年も続いた。追々ヤミ商品が街に沢山並ぶようになり、古着も店につるされて売買されるようになった。お金さえあれば、何でも買えるようになったが、貯金は封鎖され新円に切り替えになった。

教会の礼拝に行っている留守の間に、その新円を泥棒にすっかり取られてしまい、当座とても困った。親戚から折角送って来た虎屋の羊羹も、ついでに持って行かれ、甘党の父はすっかりしょげてしまった。

 戦後の開放感が拡がっていった終戦後はじめての21年のお盆には、誰が始めたのか大通りに自然に盆踊りの輪が出来た。それが次第に当時はやりの「ズンドコ節」に変って行ったのである。タンスにしまいこんであった浴衣姿の若者、おじいちゃん、おばあちゃんまで加わり踊りは一晩中続いた。

 何かが爆発したような異常な興奮の渦が街中に広がって行った。その後も毎年盆踊りは続けられたが、ズンドコ節のあの激しさはもう無かった。
 
久々に 野辺を歩めば 生き生きと
野菊の花が 吾(あ)を迎うるよ  愛子

うめもどき たねまきてより いくとしか
 枝もたわわに 赤き実つけぬ  愛子