蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

空の空なる空はない


♪バガテルop32&鎌倉ちょっと不思議な物語94回

ひところの私の趣味はデジカメで毎日自分の顔と空の写真を撮ることだったが、最近は空を飛翔するものを撮影することに「固まって」きた。

飛翔するものならトンビでも烏でもスズメでもUFOでも何でもいいのだが、圧倒的に飛行機が多い。ジャンボやヘリやプロペラ機やいろいろな飛行機がだいたい5分か6分に1機くらいの頻度でいろいろな方向に飛び交っている。

部屋にいてどこかでブーンという音が聞こえると愛用のデジカメを持って道路や露台に飛び出して上空にキョロキョロ探し求め、ともかくその機影をとらえる。朝から晩までこれをやっているから夜中でもブーンという音が聞こえると目が覚める始末。まるでノーローゼである。

自宅の周囲はあまり空が広くないので、近所の神社や広場や空き地で空にレンズを向けているから、向う三軒両隣の人々はほとんど狂人扱いで、最近は朝晩の挨拶にも顔を背ける人が増えてきたような気が心なしかする。

それはともかく自宅の上空を、毎日毎日これほど頻繁にこれほど多くの航空機が往していようとは夢にも思わなかった。先日横浜の栄区にある栄プールの上空で1機を撮影していたら、もう一機が近接遭遇したので思わずあっと叫んだくらいだ。

鎌倉は最近米軍の陸軍第一軍団前方司令部が進出してきたキャンプ座間にも、同じく米海軍空母の母港である横須賀にも、自衛隊の厚木基地にも近く、おまけに羽田や成田を発着する民間航空機の侵入離脱航路にも近いので、軍民合わせて飛来する頻度がこれほどの数になるのであろう。

幸い大和市や厚木市などのように上空すれすれに巨大な戦闘機が耳を聾せんばかりの轟音をあげながら接近することはないから助かっているものの、一日中鳥しか飛ばないのんびりした空、無人の空、旧約聖書の伝道の書にいう「空の空なる」空はもはや1瞬も存在しないことがはじめて分かった。
航空機に許された飛行範囲がきわめて限定的なものであることを考えれば、いまや大空も陸地並みの交通ラッシュ状態に近づいているといえそうだ。


♪大空を二つに切り裂くF-4EJ